おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

WIRED VOL.20/特集 A.I.(人工知能)



にわかにバズワード化したシンギュラリティに向けての特集ムック本。
現状とロードマップがしっかりまとめてあってマイルストーンとなる一冊に仕上がっている。
カーツワイル周辺を何年も取り上げムーブメント作ってきただけあって面目躍如と言えます。
特異点にしろ突然やってくる訳ではなく今に地続きの現実として存在することが実感できる。
2045年まで本当に人間を超える知性が誕生するかは分からんけど、知性というタームを人間のものに限定しないならば、結局何かは到来するんだよ。

同時特集の都市論は中身薄かった。反省しろ。

壁を越えるにはある種の知能の飛躍が起きなければならない。
局地戦だけでなく、盤面全体を捉えられるかが問題なんだ。

クライヴ・バーカー「ジャクリーン・エス」


あらすじ
生ある者を暗黒の世界へ引きずりこむ女、ジャクリーン・エス。裏切られた愛ゆえか、超能力で男の肉体を冷酷無惨に破壊する!恐るべきリアリティで描きあげた血も凍る鮮血のスプラッタ・ホラー。

「血の本」第2巻。
なんといっても表題作が出色のデキでした。
男たちの臓物を撒き散らしながら笑う美女には鮮烈なビジュアルイメージがある。
パーカー自身がSM趣味やら倒錯した性癖の宝庫なんだけど、それを肯定的に昇華したのが本シリーズと言えますね。
性と生と死が渾然となるラストは荘厳さすらあり圧巻です。純文学なのかもしれない。

山内マリコ「ここは退屈迎えに来て」


あらすじ
そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる―。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生…ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。

どの物語も起伏がある訳ではなく、地方に生きる若者の退屈を描くこと自体が目的に感じました。
全般に言葉にしがたいアトモスフィアがある。意図的なものだろうし作者の上手さが光ります。
この感覚は巻末の解説がしっかりと言語化してるんで必読。
で、問題が椎名ですよ。
本作は桐島部活〜と同じ方法論で作中世界の神を描いている。女の子たちが「迎えに来て」と願うのは特別な存在である椎名であり、いわゆる地元のイケてる奴な訳です。
しかし読み込むうち絵に描いたような地方の雄・椎名の生活も危うい均衡で成り立ってきたことに気づく。
それは今の地方社会が抱える危うさそのものであるように思えます。
あと10年もしたら、本当に"ありふれた"地方都市は存在するんだろうか。そんなザワつきが胸に残りました。

お前がいなかったら、俺いまもゲーセンで死んでたわ

 

中原昌也「子猫が読む乱暴者日記」

文字を読むという行為には快楽性があると思うんだよね。


あらすじ
「俺は生まれながらの乱暴者さ。ガンジーの断食もマザー・テレサの博愛も…俺の暴走を止めることはできない」

小説なのかなこれは。どちらかというとロックの歌詞の変形な感じがする。
起承転結を放棄した物語?がそれでも力を有するのは歯切れの良い文章自体が持つ魅力でしょう。
全体的に語感が良い気がする。ヒップホップなのかもしれない。

シャーリイ・ジャクスン「なんでもない一日 」


あらすじ
家に出没するネズミを退治するため、罠を買うようにと妻に命じた夫が目にする光景とは…ぞっとする終幕が待ち受ける「ネズミ」。謎の追跡者から逃れようと都市を彷徨う女の姿を描く、美しい悪夢の結晶のごとき一編「逢瀬」。犯罪実話風の発端から、思わぬ方向へと話がねじれる「行方不明の少女」など、悪意と妄念、恐怖と哄笑が彩る23編にエッセイ5編を付す。

全俺待望のジャクスン翻訳。
今回の目玉は「なんでもない日にピーナツを持って」でしょう。これは「くじ」レベルの傑作で、悪意の深さでは超えているかもしれない。
本国では国語教材として使用され多くの議論がなされているとか。神様ごっこを描いているのだと個人的には思ってる。
勝手に作者像を基地外だと考えていたんだけど、今回収録された子育てエッセイを読むに割と普通のお母さんだったのかもしれません。
この人は本物の天才で、まだまだ入手困難な傑作があるようなのでこの機に全て訳出してほしい。
つーか入れ替わるように「くじ」が絶版になってるんですけど再販してくれませんかね。

ウンベルト・エーコ「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」


あらすじ
紙の本は、電子書籍に駆逐されてしまうのか?書物の歴史が直面している大きな転機について、博覧強記の老練愛書家が縦横無尽に語り合う。

まず言っておくのは非常に装丁が綺麗だということ。
テーマがテーマなだけに紙の本としての矜持を感じさせる作りになっている。
小口を染める藍色も鮮やかだしカバー裏も稀覯書のような趣がある。

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内容は割と掴み難くて、というかざっくりしたテーマを元に2人が取り留めなく雑談するだけだったりする。
下手打つとグダグダになる構成なんだけど、最後まで読む手が止まらないのはひとえに対談者たちの知性の高さによるでしょう。頭の良い人の話は面白い。
不思議な読後感だな〜と思ったんだけど末尾の解説にある書物の世界への紀行文という説明を読んで納得がいった。
読書という行為のスリリングさ興奮を再認識させてくれる一冊。

はじめに言葉があった。言葉は神と共にあった。言葉は神であった。

三田誠広「いちご同盟」


あらすじ
高校受験と自分の将来に悩み、死さえ考えた良一。野球部のエース徹也を通じて、不治の病の少女・直美と出会い、生きる勇気を知った。15歳の少年が見つめる愛と友情と死

これ、昔、何かの問題集でちょっとだけ読んだんだよね。気になっていたので決着を着けようと読んでみた。
なんでも学習指導要領に入ってるらしくて一種難病物のお手本のような趣きがある。
意外だったのは直美のストーリーラインが淡々として進むこと。
それもあって読み終わった後に思うのは、本作があくまで生者の側の物語だったということだ。
生きることに意味を見出せずにいた良一が「いちご同盟」という生きるための約束を結ぶ物語として成立している。
センチメンタリズムというよりも今生きている15歳に読ませたくてあの問題集の選者はチョイスしたのではと感じます。
いい判断だ。


「あたしは運命を恨むわけにはいかない。運命が、あなたをあたしの前に連れて来たのよ。だからあたしは、この運命(自分が助からないこと)を、喜んで受入れようと思うの」
「あなたに会えて、よかった」