おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

魔王(漫画版)


あらすじ
高校生の安藤は、幼い頃自分にあると信じていた「他人に自分の思っていることを話させる力」が、単に偶然ではないことに気付く。
同時に都心開発計画に揺れる街で、自警団グラスホッパーを率いるカリスマ・犬養には裏の顔があることを知り、犬養は正義の味方ではなく魔王なのかもしれないという懸念をたった一人抱くことになる。
民衆の心を惹き付け扇動し「洪水」を起こそうとする犬養。その大きな力に、安藤は自身の小さな能力・腹話術で対決することを決意する。

この10年のサンデーにおける最大の成果は「魔王」だったと思うんですよ
これだけ明確なメッセージ性を打ち出した漫画は他になかったし
興味深いのは、そもそもこの作品において敵役であるべき犬飼に対して主人公は悪であるとは言っていないんですよね
「自分で考える事無く盲目的に従う人々」というのに対して反発を持ってるだけで
『集団に流される事なく一人でも立ち向かう勇気を持てるか』を主軸に据えている
このテーマは挿話として挟まれる「クラレッタのスカートを直す」に端的に表れてます

ムッソリーニは最後、恋人のクラレッタと一緒に銃殺されて、死体は広場に晒された。群集は死体につばを吐き、死体はやがて逆さに吊るされた。すると、クラレッタのスカートがめくれた。露わになった下着に群集は興奮して騒いだ。その時に一人だけが、ブーイングされながらも、自分のベルトでクラレッタのスカートを縛り、それ以上めくれるのを止めた

異能者バトルに見せかけて読み手の一人一人に自身の問題として突きつけるというのは少年漫画としては明らかに異質な訳で
伊坂の原作が優れたエンタメというのもあるんだけれど、あれだけのテーマを少年漫画という文法で成立させた事は評価されるべき

「たとえでたらめでも自分を信じて対決していけば、世界だって、変えられる。」 (作中より)