立川談春「赤めだか」
今まで落語における人情咄・怪談咄の位置付けを掴みかねていたんだけど、作中で談志の言葉を借りて「落語とは業の肯定」と言い切るのを見て初めて納得いった。
笑わせるだけが落語ではないのだ。
また文庫版の装丁が素晴らしくて、人間の弱さ悲しさ可笑しさを描いた談秋のエピソードを想起させる作りになっている。
咄を語るとは人の本質に近づくことなのだろう。存在の全てをもって。
クライヴ・バーカー「ラスト・ショウ」
血の本最終巻。
絶版になっているのをこつこつと1冊ずつ入手しては足かけ4年読んでいたので感慨深いものがある。
改めて驚かされるのはSFからスパイ活劇までに渡るバリエーションの豊富さと外れのなさでした。
この後のバーカーはヘルレイザーなど映画方面での活動の方が有名になったきらいがあるけれど、原点にして極に達したのは本シリーズでしょう。
1人の天才の絶頂期を示す傑作集。
Every body is a book of blood; Wherever we're opened, we're red
全ての肉体は血の本である。どこだろうと開いてみれば、赤に染まる
伊坂幸太郎「仙台ぐらし」
伊坂幸太郎が仙台のローカル紙で連載してたコラムのまとめ。
伊坂節というか、肩の力が抜けた話ばかり収録されています。
頭の良い人間のエッセイはテーマが無くても読ませるものがある。
クライヴ・バーカー「ゴースト・モーテル」
血の本4作目。
自分の手が勝手に動いて金玉を握りつぶす話が怖かったです。
ジョナサン・サフラン・フォア 「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
911をモチーフにしてるけど、もっと普遍的な人間の悲しみを描いた作品でした。
物語に沿って挿入される写真だとか、視覚に訴える工夫が印象的。
混乱した登場人物による乱れた語り口など、言語化できない感情を描写することに主眼が置かれています。
だからこの本はあまり言い切るということが無くて捉えがたい結末を迎える。
全ての感情が言葉に出せる訳じゃないし、掬い取れない細かな感情の機微を描くにはこうするしか無かったということでしょう。
表現の可能性を感じる1作
ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」
ビートジェネレーションのバイブルとして愛される名著。
小説とも散文詩とも取れる独特の言語感覚が魅力的でした。ビートって何なのと聞かれてもこーゆーのだよと言うしかない。
旧題の「路上」も良かったんだけど、原文の「On the Road」は複数の意味がかけられているのでこっちのが正確ではある。
ロードとは道であり途上でありタオなのです。
読んでて胸に去来するのは荒野のイメージで、これがアメリカ人の心象風景なんでしょう。生きることは動き続けること。道を行くこと。
テリーに、行くよ、と言った。
葡萄畑でぼくにそっけなくキスをすると、葡萄の列のあいだを歩いていった。
おたがい十二歩進んでから振り返った、愛は決闘だから。これが最後とばかりに見つめあった。