おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

町田康「くっすん大黒」


あらすじ
三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行った。誰もいない部屋に転がる不愉快きわまりない金属の大黒、今日こそ捨ててこます―日本にパンクを実在させた町田康が文学の新世紀を切り拓き、作家としても熱狂的な支持を得た鮮烈のデビュー作、待望の文庫化。

伏線があるようでないようなよく分からない感覚。パンクでした。

田村隆一・長薗安浩「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」


最近知ったんですけど翻訳の世界でも有名な人みたいです。生き様がそのまま作品になったようなカッコイイ詩人ですね。
タイトルにもなってる「帰途」は出色のでき。

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる
 
 

クライブ・バーカー「セルロイドの息子」


血の本の3巻目。相変わらず傑作揃いでした。
原著の方がカバーデザイン良い気がしますね。

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“バーディは、怪物を振り落としたい衝動と必死で闘いながら、相手の全身が自分の体にしがみつくのを待った。そして、一気に勝負に出た。
そのまま、ごろりと転がったのである。
最後に体重を計ったとき、バーディの目方は100キロを超えていた。今ではそれ以上に太っているはずだ。”
僕が気に入った文章 

野尻抱介「南極点のピアピア動画」

つうか作者50代なの。。。


あらすじ
日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え恋人の奈美までが彼のもとを去った。省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。しかし、月からの放出物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始される―ネットと宇宙開発の未来を描く4篇収録の連作集。

初音ミクを実体化させるというテーマを念頭に描かれただろう作品。
軌道エレベーターから異星人とのファーストコンタクトまでハードなテーマをきっちり描いているので読み応えありました。
それでいて動画共有サービス文化をドラマの主軸においているのがエンタメ的で面白い。
今の日本でしか出てこない小説ゆえに和製SFとしての必然性を感じます。

進歩した文明に主従の階層などいらないはずだよ。意識を持つ個体は、誰もがその文明を享受し、担い手になれると思う

早川義夫「たましいの場所」


18歳から21歳まで歌を歌っていた。早くおじいさんになろうと思い、25歳、町の本屋の主人として暮らしはじめた。そして二十数年後、無性に歌が歌いたくなり歌手として再出発した早川義夫の代表的エッセイ集。「恋をしていいのだ。恥をかいていいのだ。今を歌っていくのだ」。心を揺り動かす率直で本質的な言葉。文庫用に最終章を追加。

歌手に戻ってからを中心に書かれたエッセイ集。
早川さんは率直な物言いをする人で、「ぼくは本屋のおやじさん」 の頃から(これ書いちゃまずいんじゃないか…)ということまで臆せず書いてた。
そうしないと 届かない言葉があって、書かざるを得ない気持ちがあるから。
たましいの場所とは自分が自分である場所なんだろう。
 
「死ぬ間際、母は病室で歌を歌った」

早川義夫「ぼくは本屋のおやじさん」


22歳(1969年)ロックグループをやめ、小さな書店を始めた著者の奮闘記。置きたい本が入荷しない小さな店のもどかしさ。冊子『読書手帖』を作って客とふれあい、書店主同士で通信を作り交流。再び歌手を始めるまでの22年間で学んだ大切なこととは。文庫化にあたり、エッセイ8本と「早川書店」のブックカバー等を収録(絵=藤原マキ)。

本屋さんてどんな感じなんかな~と思ってたんですけど割と大変そうでした。
出版流通には再販制度があって、店舗ごとの裁量が限定されるんですよね。何を仕入れるかもままならない。
それが業界を守ってた側面はあるんだけど、今現在、個人書店が風前の灯火な時点でやっぱ間違ってたんだよ。
流石に今は改善している部分もあると思いたいです。
本屋って幻想を抱きがちな場所だけど、商売としてやってる以上は煩わしいことばかりなんだよ。
このエッセイはそんな事柄を淡々と書いてるんだけど、それでも最後、お店しめる時に堰を切ったように泣いてしまうところ本当に胸を動かされました。
それはきっと働くことの感動なんだろう。

本屋での「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の世界にも感動はあったのだ 。小説や映画やステージの上だけに感動があるのではない。こうした何でもない日常の世界に、それは、目に見えないくらいの小さな感動なのだが、毎日積み重なっていたのだということを僕は閉店の日にお客さんから学んだ。

井野朋也「新宿駅最後の小さなお店ベルク: 個人店が生き残るには?」


新宿駅15秒の個人カフェ「ベルク」。チェーン店にはない創意工夫と経営と卓抜した味と安さ。帯=奈良美智 解説=柄谷行人吉田戦車、押野見喜八郎 

ベルクは新宿アルタの下ら辺にある喫茶店、というかビアホールで昼から酒飲めるんだよね。
ソーセージがとても美味しいです。
ここは独特の雰囲気があって所狭しとPOPや社会問題への提起なんかが貼ってある。
思想を前面に打ち出していて気になってたんだけど本書を読んで納得が行きました。
なんのために働くのかというのは、なんのために生きるのかという問題に含まれるところがあって、店長は自分なりの答えを出している。
そこには哲学が必要なんだよ。
死んでるみたいに生きたくないから。
スターバックス的なるものへの反発というか 、自分で考えて自分で動くということが徹底していて、ビジネス書としても思想書としても読める良い本でした。