おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

田村隆一・長薗安浩「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」


最近知ったんですけど翻訳の世界でも有名な人みたいです。生き様がそのまま作品になったようなカッコイイ詩人ですね。
タイトルにもなってる「帰途」は出色のでき。

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる