おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

ポール・セイヤー「狂気のやすらぎ」

主人公が一言も喋らなかった…


あらすじ
「わたし」は重度のカタトニー(緊張型分裂症)患者。全身の運動機能が冒され、意識はきわめて鮮明だが、それを人に伝えることも、表情に表わすこともできない。何年もの間、同じ精神病院に入れられ、積極的な治療も施されないまま、まどろむように均質的な日々をおくっていた。ところがある日、ひとりの女性の訪問が、心地よい平安を破ったのである…。

英ホイットブレッド大賞受賞
他の候補作が「悪魔の詩」だったりするので本作のインパクトがいかに大きかったか推し測れる
日本ではさほど売れなかったのか絶版になっているのが残念です
主人公は精神を患い外部から完全に心を閉ざした男
そのため本文は内面描写のみで構成されている
ここまで書くとセカイ系みたいだけど、主人公が内面にも外世界にも何ら意味を見出してないためセカイナイ系というのが正しいかもしれません
主体を捨て去り状況に流されていくことを受け入れ、その狂気にやすらぎすら感じる様に鳥肌が立ちます
僕はこの男が何のために生きているのか微塵も理解できなかった
言葉にできない読後感が残ること請合いです!
実際に著者は精神科で働いた経験があり、病人の心の動きには相応のリアリティがありました