おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

ウォッチメン



あらすじ
かつて、“ウォッチメン”と呼ばれる者たちがいた。彼らは<監視者>となって世界の重大事件に関わり、人々を見守り続けてきた。だが1977年、政府によりその活動を禁止され、ある者は姿を消し、ある者は密かに活動を続けていくことに。1985年、未だニクソン大統領が権力を振るい、ソ連と緊張状態にあるアメリカ。10月、ニューヨークの高層マンションからエドワード・ブレイクという名の男が突き落とされ、無惨に殺された。そして、そのそばには血の付いたスマイルバッジが。スマイルバッジは、かつてブレイクがスーパーヒーロー“コメディアン”として活躍していたときのトレードマークだった。現場に現われた“顔のない男”ロールシャッハは、事件の背後に陰謀の臭いを嗅ぎとり、すぐさま“ウォッチメン”と呼ばれたかつての仲間たちの周辺を独自に調べ始めるのだったが…。

ヒューゴー賞受賞 ”
“タイム誌が選ぶ長編小説ベスト100”
アメリカン・コミックスがたどりついた頂点 ”
この作品に送られた賛辞は枚挙に暇が無い
だが一方で、日本において正しく理解されているかについては疑問の余地が残るところだ
まず、アメコミには2種類あるという事を頭に入れておく必要がる
そもそもアメコミ=「マッチョなヒーローが悪人倒してすぽぽぽーん」みたいな誤解である
何故にああした漫画が流布するようになったかというと、50年代米国では赤狩り表現の自由が脅かされるようになったので嫌々ながら業界が自主規制に乗り出したからだったりする
こうした「単純な勧善懲悪」アメコミに対して、80年代になるとカウンターとして「社会派の視点を持ち込んだ」アメコミが誕生するようになった
そして後者の最右翼が「ウォッチメン」なのです

そもそもこの作品は米国についてのある種の思考実験なんですよ
そこに対して「変なヒーロー物」という見方をしていては何も理解できない

映画版のOPが分かり易いね
http://www.youtube.com/watch?v=573XmVOdD2Q
BGMはボブディラン「時代は変る」
初代ウォッチメン結成、ヒーローの黄金時代
エノラ・ゲイに女性ヒーローのペイントが施される程の人気
戦後、初代ウォッチメンは解散、ヒーローの存在は時代に合わなくなっていく
かつてのヒーローの中から精神に変調をきたす者、犯罪者の報復で殺される者が現れる
冷戦構造が成立、ドクター・マンハッタン誕生
JFK暗殺、キューバ危機が起きないので「雪解け」が無い
政府は強権化、フラワームーブメントが銃弾によって鎮圧される
ウォーホールによるヒーローのポップアイコン化
アポロ計画へのドクター・マンハッタンの関与
2次ウォッチメン結成、ドクター・マンハッタンは政府の管理下におかれる
ニクソン3選(ウォーターゲート事件は揉み消されている)、市民によるウォッチメン排斥運動

もう少し具体的に世界観を説明すると
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ヒーローが実在する場合のアメリカ史
一、ウォッチメンとは仮面を被った自警団であり超法規的に活動している。要するにバットマンのパチモンである。その為に市民から不信を抱かれており、犯罪者との線引きが出来ないので逆に治安が悪化してしまう。悪党を一人二人倒したところで何も変わらないのだ。

二、そうした中で一人だけ本物の超人ドクター・マンハッタンが誕生する。彼は原子を操ることが出来る万能者である。米国は彼を使いベトナム戦争に勝利、冷戦は深刻化し核戦争は秒読みに入る。

三、キーン条例の施行によりヒーローの存在が非合法となる。政府の管理下に置かれたドクター・マンハッタンとコメディアンのみが活動を許される。他のメンバーは引退、ロールシャッハだけは潜伏し独自に活動するようになる。当然、犯罪者扱い。 
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登場人物
ドクター・マンハッタン…作中世界における万能者。彼にとって過去と現在と未来は同時に存在する為、徐々に人間性を失い神に近づきつつある。核抑止力の象徴。

コメディアン…ぶっちゃけると唯一人正気の人物。仮面のヒーローが活躍する現実、いつ核戦争が起きてもおかしくないという現実、その馬鹿らしさを誰よりも理解するが故にあえてヒーローの役割を演じている。嬉々としてベトナム戦争に赴き、喜んで公民権運動を暴力で押さえ込む。コメディでしかない20世紀を笑いとばすために。米国の象徴。

ロールシャッハ…壮絶な過去を持つために異常なまでの正義感を抱くようになった怪人。彼にとって全ては白黒であり犯罪者に対して死をもって償わせることを辞さない。正義の象徴。

オジマンディアス…世界で最も賢い男。終末に向かう世界を憂えている。彼もまた正義の象徴。

こんな感じで全てが“あの20世紀”に対するカリカチュアなのですね
そしてその裏には「ヒーローは世界を救えない」というテーマが徹底してる
それじゃあどうするの?の一つの答えが提示されているかと
元々、アメリカ人のヒーローの定義は「超パワーの有る無し」じゃなく「自分の正義を貫くか否か」なので、最後にロールシャッハの決断に集約させたのも上手いと思った

やる夫化もされているのでまず読んでみると良いんじゃないでしょうか
http://oyoguyaruo.blog72.fc2.com/blog-category-88.html
そして現実世界と「ウォッチメン」の世界が本質において変わりない事を理解すれば誰も笑い飛ばせはしないだろう 

「笑わせるな、たとえ世界が滅んでも絶対に妥協はしない」
ロールシャッハ


劇場版は原作信者に媚び過ぎて初見客に不親切すぎた
設定が分かり辛いし、普通のアメコミアクションみたいに宣伝したのもいけない
プロットがメインなんだから
もっとも、本来の映像は4時間近くあるらしいのでそれ次第で評価は変わる