おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

アンナ・カヴァン「氷」

絶対の終末へ


あらすじ
異常な寒波のなか、夜道に迷いながら、私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気象変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って、某独裁国家に潜入した私は、要塞のような「高い館」で、絶対的な力で少女を支配する「長官」と対峙するが…。刻々と迫り来る氷の壁、地上に蔓延する抗争と殺戮、絶望的な逃避行。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで読者を魅了し、冷たい熱狂を引き起したアンナ・カヴァンの伝説的名作。

なんなのだろう、これは。
目まぐるしく変わる場面展開、現実と幻視が交錯し読者は変転の波に飲み込まれていくことになる。
ある意味物語として破綻している本書を繋ぎとめるのは圧倒的な“氷”のヴィジョンだ。
氷が想起するもの、白夜、冷気、凍結、終焉、死のイメージ。
論理構造ではなく感覚的なモチーフによって終末のメッセージを伝えようとする試み、その文学上の冒険は静かな感動を呼び起こす。
なにか美しいものを見たという感慨が胸に残っていく。

アンナは氷に対する準備ができていた。不意を襲われたのは私たちのほうだった。
ブライアン・オールディス