おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

開高健「 日本三文オペラ」

小説というかルポっぽい。



ナニワ金融道アパッチ族のことを取り上げていたので読んでみました。
今も大阪に残る猥雑さが戦後のこの辺りから続く系譜にあると得心できた。
醜くとも意地汚くても生きなければいけない哀しみが胸に伝わってくる。
人間賛歌ではなく人間哀歌ですなこりゃ。

野崎まど「バビロン 1 ―女―」



ラノベ調の表紙で損してるなと思った。
確かにキャラは立っているが、キャラクター小説とは異なる質感がある。
角川ホラーとかで出した方が良かった気がする。表紙可愛いけど。
導入部としては申し分ない1巻目なので続きに期待。しかし最終巻は発売延期になっているのであった。

平山夢明「ダイナー」


あらすじ
ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、カナコは生き延びることができるのか?暗躍する組織の抗争、命がけの恋―。

全般的にマンガぽくてキャラクター小説寄りでした。
プロの殺し屋にしてはどいつも抜けていてリアリティが無い。稚拙さが気になって入り込むことが出来なかったです。
取ってつけたようなハッピーエンドも違和感ありました。
ただ食事描写は良かったので美味しいハンバーガーを食べたくなりました。

シャーリイ・ジャクスン「処刑人」



全ての女はメンヘラである/あった。
モラトリアムに多額を費やし、与えられた家庭に不満を垂れ、意味もなく周囲と諍いを起こす。
そんな未熟な自意識は少女を破滅の淵へと導いていく。

頭が良いジャクスンは女の業を自覚し受け入れていたんだろう。
一読しただけでは気づかない徴を随所に配置し物語らしき何かを構成する、
読書というには異質な体験をもたらす手腕は秘蹟という他ない。
最後の魔女による堂々たる魔術。

安部公房「水中都市・デンドロカカリヤ」

あんまり人間性を阻害されるとデンドロカカリヤになっちゃうよ!



安部公房作品に漂う閉塞感、モノクロな情景を見ると昭和の作家だなと思う。
ストーリーテリングは無国籍風なんだけどね。
現実の不確かさ、個人の脆弱さには戦後の影が落ちているのかもしれない。

「ぼくらみんなして手をつながなければ、火は守れないんだよ」

又吉直樹「火花」

持続するか分からないけど、少なくとも火花を書いた時の又吉直樹は天才だった。



芸人が書いたという話題性抜きに素晴らしい本でした。
努力が報われない、正しいことが通らない、かもしれない。それは青年期を通して誰もが学ぶことだと思う。
あれほどあったはずの時間が流れ去ろうとしていることに気付いた時の焦燥感。
それでも覆そうと、抗おうと、成そうと、刹那に生きる姿がどれほど美しく愛おしいことか。
火花に共感し感動できるなら、僕らにもきっとまだ炎が残っている。