おれん家の本棚

音楽・映画・書籍なんかのテキトーな感想。フツーにネタバレする。

ジョナサン・サフラン・フォア 「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」



911をモチーフにしてるけど、もっと普遍的な人間の悲しみを描いた作品でした。
物語に沿って挿入される写真だとか、視覚に訴える工夫が印象的。
混乱した登場人物による乱れた語り口など、言語化できない感情を描写することに主眼が置かれています。

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だからこの本はあまり言い切るということが無くて捉えがたい結末を迎える。
全ての感情が言葉に出せる訳じゃないし、掬い取れない細かな感情の機微を描くにはこうするしか無かったということでしょう。
表現の可能性を感じる1作

ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」



ビートジェネレーションのバイブルとして愛される名著。
小説とも散文詩とも取れる独特の言語感覚が魅力的でした。ビートって何なのと聞かれてもこーゆーのだよと言うしかない。
旧題の「路上」も良かったんだけど、原文の「On the Road」は複数の意味がかけられているのでこっちのが正確ではある。
ロードとは道であり途上でありタオなのです。
読んでて胸に去来するのは荒野のイメージで、これがアメリカ人の心象風景なんでしょう。生きることは動き続けること。道を行くこと。

テリーに、行くよ、と言った。
葡萄畑でぼくにそっけなくキスをすると、葡萄の列のあいだを歩いていった。
おたがい十二歩進んでから振り返った、愛は決闘だから。これが最後とばかりに見つめあった。

フレドリック・ブラウン「さあ、気ちがいになりなさい」



古き良きSFでした。すこしふしぎ。
どことなく星新一なフィーリングがあるのは星先生が翻訳したからだけでなく、星先生自身も影響受けたということでしょう。
・電獣ヴァヴェリの叙情性
・帽子の手品の不穏さ
・表題作のスケール
と懐の深さを感じます。他の作品も読んでみたいな〜と思いました。

法条遥「リライト」


あらすじ
過去は変わらないはずだった―1992年夏、未来から来たという保彦と出会った中学2年の美雪は、旧校舎崩壊事故から彼を救うため10年後へ跳んだ。2002年夏、作家となった美雪はその経験を元に小説を上梓する。彼と過ごした夏、時を超える薬、突然の別れ…しかしタイムリープ当日になっても10年前の自分は現れない。不審に思い調べるなかで、美雪は記憶と現実の違いに気づき…SF史上最悪のパラドックスを描く第1作。

疲れる小説でした。
タイムバラドクス物ってどれも思考がループするけれど、本作は疲れさせること自体が目的になってるような。
捻りに捻ったプロットを立てるにあたってモデル図だったり用意したことを想像させます。読む価値はある。
閑話休題
ところで伊藤計劃円城塔といったこの年代のSF作家は認識論や存在論に軸足置いてて文学的な前進を感じるんだよね。
保守に凝り固まった文壇の連中より重要なことやってると思うし、本来こういうのが現代文学として取り上げられるべきと主張したいですまる

リライブまで読むと何らかの感動があるらしいんだけど疲れるから読みません。

倉橋由美子「スミヤキストQの冒険」


あらすじ
そこは悪夢の島か、はたまたユートピアか。スミヤキ党員Qが工作のために潜り込んだ孤島の感化院の実態は、じつに常軌を逸したものだった。グロテスクな院長やドクトルに抗して、Qのドン・キホーテ的奮闘が始まる。乾いた風刺と奔放な比喩を駆使して、非日常の世界から日常の非条理を照射する。怖ろしくも愉しい長編小説。

共産主義を揶揄したとして物議をかもした作品。デビュー作「パルタイ」の延長にある印象を受けました。
ただこの作者って右翼でも左翼でもなくて、イデオロギー信奉そのものに対して批判を加えているんだよね。「結局お前たちはそれらしいお題目がありさえすればいいのだ」という冷笑が感じられる。
スミヤキズムの要領の得なさとは逆に、排泄行為や性行為が生々しく描写されているのはリアリズムの極北という他ない。
あるものだけがあるという視点、全てを突き放して見下す観察眼。
クールだぜ。

イアン・ローランド「コールド・リーディング」

コールド・リーディング(Cold reading)とは話術の一つ。外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手のことを言い当て、相手に「わたしはあなたよりもあなたのことをよく知っている」と信じさせる話術である。「コールド」とは「事前の準備なしで」、「リーディング」とは「相手の心を読みとる」という意味である。



まず10人が10人知っておくべきなのは、コミュニケーション力とはギフトではなくスキルということだ。
つまり技術なら修得できるし向上し得る。
会話の流れはなるべくして流れるのではなく自分の意図した方向に進めるものである。
本書はこの技術を体系化しコミュニケーションをコントロールするための教科書として成立している。

以下に備忘しておきたいフレームワークを記す
・マインドスクリプト
・虹色の戦略(全てのオプションの羅列)
・ジェイクイーズ・ステートメント(誰もがぶつかる人生の問題)
・隣の芝生
・バーナム・ステートメント(誰でも自分のことと感じる事柄)
・フォーキング(会話の分岐)
・対照的な人物
ポリアンナの真珠(楽観的な未来を仄めかす)